エリプソメトリーのデータ解析
エリプソメトリーでは、膜厚や光学定数といった試料の物性を評価するために偏光の変化を測定します。試料がバルクの場合、最表面からの反射光のみから導出される式を用いることで、エリプソメトリーから得たデータを“擬”誘電関数に直接変換できます。
この式は試料表面に何も層がないことを仮定しています。しかし、どのようなバルク材料であっても一般的には表面に酸化膜または表面粗さが存在し、それらの層の影響を含んだバルクの光学定数として変換してしまいます。より一般的に用いられるエリプソメトリー測定から物性を評価する手順は図7のフローチャートに従います。正確な式を記述することは不可能であるため、回帰解析が必要になります。多くの場合、いくつかの未知数に対して数百ものデータポイントを用いて解を求めます。回帰解析では、解を求める際にすべての測定データを含むように解析を行います。
図7:エリプソメトリーデータ解析のフローチャート
データ解析の手順は以下の通りです。試料を測定したのちに、試料を記する光学モデルを構築します。このモデルはフレネル方程式から予測される偏光の応答を計算するために用いられ、各材料の膜厚と光学定数とで記述されます。これらの値が未知数である場合、フィッテング前の準備としてモデルから計算値が出力されます。計算値が測定データと比較され、測定データと計算値がマッチするようにすべての未知数を変化させることができます。ここで、未知数の量は測定データに含まれる情報量より少なくする必要があります。例えば、単一波長のエリプソメータでは2つのデータ量(ΨとΔ)が測定されるため、最大で2つの物性値を求めることができます。モデルと測定データの最適なマッチングを見つけ出すためには、一般的に回帰解析が用いられます。平均二乗誤差(Mean Squared Error :MSE)などが計算値と測定データの不一致度を定量化する指標として使用されます。未知のパラメーターはMSEが最小値に到達するまで変化させることができます。
最適な解とはMSEが最小になる解に相当します。下図はSi基板上の透明膜における膜厚に対するMSEのグラフを表した例です。この図中には複数の“極小値(local minima)”が存在していますが、MSEが最小となる膜厚は749nmです。この膜厚が正しい解に相当します。このように、回帰解析のアルゴリズムは膜厚の初期値とMSEの形状によっては極小値に落ちてしまう可能性があります。極小値と最小値での解析結果を目視で比較することで、容易に正しい解(global minimum)を判別することができます。
図8:膜厚に対するMSE(下図)によりglobal minimumが分かる。回帰解析のアルゴリズムでは極小値に落ちる可能性があるが、これは正しい解に相当しない。右上図は測定データをglobal minimumでのモデルからの計算値を示したグラフ。0.45µm付近の極小値では類似の曲線が見られるが、容易に正しくない解であることがわかる(左上図)。